なかなか取れない痛みの原因部位は、神経の周りに存在する
「異常な血管」が関係するかもしれません。
血管治療を行う理由は?
整形外科領域で扱う痛みは、筋肉-関節や腱などが器質的に損傷されるなどで生じるとされていますが、その痛みを感知しているのは神経となります。血管はその神経の周りを伴走します。
人間の身体には、毛細血管が各組織の末梢まで張り巡らされていますが、身体の生命維持に重要な「正常な血管」とは異なる、「異常な血管」=(いびつな構造でモヤモヤして見えるため「モヤモヤ血管」と呼ばれる)が凍結肩や五十肩(肩こり)、慢性的な腰痛、ひざの痛みなどの痛みを出す組織の周辺に増生され、痛みの原因に関与することが近年の研究で確認されてきました。
この病的な異常血管が増える理由は何故でしょうか?加齢や筋腱や靱帯の酷使により、関節軟骨が壊れると、修復の反応として炎症が生じます。しかし、長期間のさらなる損傷や使いすぎたりすると、この修復反応が長期に及び、これらの部位に血管新生(増生)が次々とおこります。この新生血管が「モヤモヤ血管」となります(写真2)。
痛みを生じている場合、動脈血管から放出される痛み物質(炎症性サイトカインやプロスタグランジン(PG:prostaglandin) ブラジキニン(BK:bradykinin)炎症性サイトカイン⇒インターロイキン(IL)・腫瘍性壊死因子(TNFα)神経成長因子(NGF:never growth factor) サブスタンスP(SP:substance P))などが、異常血管に伴走する形で血管同様に増生した神経を刺激し、痛みの信号が脳に送られて過敏な痛みの反応を引き起こします。この血管-神経周辺の痛み異常に着目した治療が「モヤモヤ血管治療」となります。
若い頃は新生血管が少ないので、マッサージをすると痛みが減りますが、中高年になると長年の蓄積で新生血管の数も増え、そのせいで痛みが引かなくなります。
若年の場合は比較的、これらの新生血管が少なくマッサージなどによる圧迫で異常血管による疼痛反応は消失しますが加齢に伴い長期間の蓄積で血管の過剰な増生が見られると痛みが引かない状態が続きます。
これらの事から、発痛血管=「モヤモヤ血管」に対しての治療が必要であるということになります。
写真1 足底腱膜炎もモヤモヤ血管が増殖
■モヤモヤ血管が有る無いはどうして分かる?
当院では、整形外科超音波分野に精通した医師による診察の際、高精細エコー(Canon製エコー:Apllio700)を用いて、このモヤモヤ血管を可視化します。モヤモヤ血管の特徴として①微小で蛇行した形状②内腔が狭い③血流の流れが遅い などがあります。この流れの遅い血管を選択的に描出する、Canon製エコーの独自機能(SMI機能)をもつ当院のエコーでは、非常に鋭敏にモヤモヤ血管の有無を捉えることができます(写真2)。また、痛みのある場所にエコーを当てることで、レントゲン被曝が無く、身体負担が少ないまま検査が可能です。
しかし、エコーの音が届かない深部や骨の後ろなどは画像化できないため、その場合にはカテーテル検査と呼ばれる細い管を血管の中に入れて造影剤を流すことで見ることができます。
写真2 エコーでモヤモヤ血管を赤く描出
■モヤモヤ血管がなくなると痛みも軽減
もやもや炎症血管の血流を止めると痛みがなくなります。もやもや炎症血管治療を施すことで、異常な血管を減らすことができます。そして驚くべきことに、異常な血管の流れを止めることで、すぐに痛みが改善します(薬を流してから数分後)。その後4週間くらいはさらに症状が軽減していきます。しかも、後述するステロイドやヒアルロン酸よりも長期間効果が持続することもわかっています。
■モヤモヤ血管を減らす他の治療はありますか?
持続圧迫(写真3) 持続圧迫により血管は潰れ血流はなくなります。幼若な血管の一部は数分から数十分程度の圧迫により血栓を生じ詰まってしまいます。すべてのモヤモヤ血管はなくせませんが、簡便で効果的な方法です。圧痛のある場所を見つけ、軽く指で押すか、壁などを利用して圧迫するなどがあります(※過度の圧迫は内出血による痛みを起こします)
写真3 出来るだけ長く患部を圧迫
◉体外衝撃波治療(ショックウェーブ)(写真4)
当院で新たに導入した収束型体外衝撃波治療器を用いれば、衝撃波によるエネルギーにより末梢の病的血管や疼痛受容器である自由神経終末を減らすことができます。腱付着部炎などで、特に有効であり足底腱膜炎のみ保険適応となっております。
図4 腱炎・付着部症などに有効な収束型体外衝撃波治療
◉ステロイド注射
当院では、エコー診療に精通した医師により、エコーを用いてモヤモヤ血管を同定し、同部位に少量のステロイドを的確に打つエコーガイド下注射を行っております。
◉ハイドロリリース・ヒアルロン酸注射(写真5)
生理食塩水やヒアルロン酸を注入すると、局所の組織柔軟性や滑走性が上がり、神経の癒着を剥がすことができます。何回か行う必要がありますが、副作用の少ない治療法となります。ただし、ヒアルロン酸注射の保険適応は、肩関節周囲炎、変形性膝関節症に限られます。
図5 ハイドロリリース注射
◉カテーテル血管治療(血管を詰める)
痛みの部位より上流の動脈にカテーテルを挿して塞栓物質を流します。モヤモヤ血管は細く、流れも遅いため塞栓物質は炎症部位で血管を詰めることができます。正常な末梢血管は流れも早く、管腔も太いため詰まりません。万が一詰まっても、直ぐに分解される塞栓物質を使いますので、2~3分で血流は改善します。
治療はおよそ15分くらいかかります。局所麻酔を刺入動脈の周囲に行います。その後、点滴で用いるカテーテルチューブを動脈内に挿入し、抗生物質でできた粒子を投与いたします。その後十分圧迫止血を行い、血腫の形成がないことを確認したのちに、帰宅していただきます。当日はなるべく安静にしていただきますが、シャワーを浴びたり、通常の生活は可能です。 治療は入院の必要が無く、当日帰宅が可能です。(※自宅内安静)
■副作用について
薬剤の投入時には皮膚に熱い感じや、痛み、鈍痛が出ますが、一時的なものです。また、皮膚の色調変化が出るのがほとんどですが、いずれも一過性ですので、心配はありません。
■治療効果について
治療効果は当日あるいは数日で感じられる場合もありますが、多くは、数週間から1−2ヶ月かけて徐々に改善が見られます。著明な症状の改善を認めない場合には、2回目の治療を行うことも可能ですが、治療間隔を、1ヶ月以上はあけていただきます。
一般的に高齢者の方ほど効果が出にくく(増生モヤモヤ血管が多いため)なかなか治療に反応しない理由は、血管以外の器質・構造的変化(骨の変形・関節破壊など)が生じているためだと考えられています。
■モヤモヤ血管治療の適応部位
手首から先の慢性疾患、足首より先の慢性疾患が良い適応です。また、他の部位でも、穿刺する血管が比較的浅く、太い場合は適応になる場合があります。
【手の病気】
①ヘバーデン結節、ブシャール結節、ミューカスシスト
②ばね指
③手根管症候群
④母指CM関節症
⑤関節リウマチ
⑥不安定性の少ない慢性靭帯損傷
【足の病気】
①足底腱膜炎
②有痛性外脛骨
③外反母趾
④モートン病
⑤扁平足による痛み
など
■著名な効果が見られない場合の理由
先述した、器質構造的な破綻をきたす状態(骨の変形や関節破壊が強い方)は、モヤモヤ血管だけが原因の痛みではないことがあります。その場合、治療による効果が少ないことがあります。当院では、施行前診察時にレントゲン・CT/MRI等による関節破壊の程度の評価、およびエコーでの局所炎症の有無を調べさせていただきます。その他に、動脈注射をする血管のほかに、患部を栄養する動脈がある場合は動脈吻合(動脈の複数経路)により薬液が分散され薄まることで、思った効果が得られないこともあります。
■モヤモヤ血管治療で使用する薬剤について
モヤモヤ血管治療で用いる塞栓物質は「イミペネム・シラスタチン」という20年前から認可が下りている安全な抗生物質を使います。この薬は非常に「溶けにくい微粒子」でできており、血管の細くなった部位に詰まって血管を塞栓させます。また、数分で融解する特徴を持ち、太さのある正常血管は詰まってもすぐに血流が再開し、細い異常な血管(モヤモヤ血管)がたくさんあるところにこの薬が流れて集まることで、異常血管のみ血流は再開せず壊死に至ります。 イミペネム・シラスタチンは異常血管のみに対し、選択的にダメージを与えることができる、非常に優れた薬剤です。
■モヤモヤ血管治療にデメリットは?
おおよそ安全な治療ですが、いくつか気をつける合併症はあります。まず、動脈内に薬剤を注入した際に、皮膚がまだら状の色調変化(一過性)や、一時的に阻血状態を起こすことに起因する痛み、違和感などがあります。ただし、いずれも一過性であり、およそ半日から数日以内に消失します。また、稀に色素沈着が数週間にわたり継続することもありますが、自然と消失するものがほとんどです。
その他の副作用としては、刺入部位の皮下血腫(瘢痕化や皮膚硬結)、針刺しによる知覚異常、操作に伴う感染症、使用する抗生物質のアレルギー反応、既往症のある方は、内服薬と使用抗生物質との相互作用(ガンシクロビル:サイトメガロウィルスの治療薬、バルプロ酸ナトリウム:てんかんの治療薬)、局所麻酔剤のアレルギー反応などがあります。アレルギー反応は、蕁麻疹や吐き気、熱感、目眩などがありますが、まれにアナフィラキシーショックに至ることがあるため、注意が必要です。また、稀に血栓を生じたり、動脈解離を生じることもありますが、いづれも頻度は低いと考えられています。血管が細いため、刺入不能の場合や、血管の穿通枝や交通枝が元々存在しない方は、治療ができない場合があります。また、妊娠中や血液の凝固を妨げる薬剤を使用中の方は、治療はできません。詳しくは、診察時に医師に既往症の申告と同時にお伺いください。
■モヤモヤ血管治療のまとめ
- ? 治療の当日~数日後に痛みが軽減
- ? 入院の必要が無く、当日帰宅可能(安静必要)
- ? 治療中の痛みが比較的少ない
- ? 副作用が少なく、出血や治療の痕が残らない
- ? 合併症が少ない
■モヤモヤ血管治療はこんな方へ効果があります。
- 長引く痛みに悩まされている
- 入院せず痛みのない日常を送りたい
- 手首や足首より先に痛みの症状がある
- できるだけ早くスポーツ復帰がしたい
- 手術以外に有効な治療法を探している
■治療の予約について
【要確認】以下、治療までの流れについて記載しております。
- 1度目の診察(保険適応)を行ったのち、適応があると判断されれば、完全予約制で行っております。初診時に施行はできませんので、ご注意ください。
- 予約制で来院後治療実施(自費診療)。後日、経過観察のため再度診察(保険診療)となります。
■治療費について
※この治療は現時点で保険診療は適応となりません。
一部位につき、1回 25,000円【27,500円(税込み)】となります。
なお、当院ではクレジットカードや電子マネーには対応しておりません。
ご了承のほどお願いいたします。
■医療費控除について
治療費は、確定申告の際、医療費控除の対象となる場合があります。医療費控除とは、医療費の負担を軽減するために設けられた制度で、自分や家族のために医療費を支払った場合、一定の金額の所得控除を受けることができます。
本人又は生計を同じにする配偶者とその他親族が、その年の1月1日から12月31日までの間に医療費を支払った場合、その翌年に確定申告をすることで医療費控除が適用され、税金が還付または軽減されます。
ただし、年間で支払った医療費が10万円以上であることが必要で、申告額の上限は200万円までです。また、総所得金額等が200万円未満の方は、実際に負担した医療費が、総所得金額等に対して5%以上である場合に申告できます。
詳細は管轄の税務署にお問い合わせください。
その他、高額療養費制度などについては公的医療保険団体(健康保険組合、協会けんぽの都道府県支部、市町村国保・後期高齢者医療制度・共済組合など)にお問い合わせください。